『理論と方法』37巻1号に論文「女性管理職は「変化の担い手」か「機械の歯車」か? 新卒女性の採用・定着に与える影響に着目して」が掲載されました。

【要旨】女性管理職が企業内のジェンダー不平等に及ぼす影響に近年注目が集まりつつある.英語圏の先行研究は,女性管理職がジェンダー不平等を緩和するという想定(「変化の担い手」)と,そのような効果はないという想定(「機械の歯車」)のどちらが支持されるかを実証的に検討してきた.本稿ではこの視角を日本企業に適用し,企業の女性管理職比率が新卒女性の採用・定着に与える影響を,企業パネルデータの計量分析によって検討した.様々な企業特性や時代的なトレンドの影響を考慮すると,下位管理職に占める女性比率は新卒女性採用比率を高めているとはいえず,定着率のジェンダー差をむしろ拡大させていた.上位管理職の女性比率も,女性採用の促進には寄与しない一方で,定着率のジェンダー差を縮小させる効果は確認された.これらの結果は概ね「機械の歯車」仮説を支持するものである.この背景には,日本企業に特徴的な管理職の特性や人事慣行の影響があると考えられる.一方で,女性の上位管理職がジェンダー不平等の改善に寄与する可能性も分析結果から示唆された.

国内大企業における女性管理職比率の多寡が、新卒女性の採用や定着に与える影響を、企業パネルデータを用いて検証した論文です。固定効果モデルを利用し、時点で変わらない(と考えられる)企業固有の特性(ex. 組織文化)やトレンドの影響を条件づけたうえで、女性管理職比率の効果を推定しています。


他の論文と同様、この研究も、匿名の査読者の先生方、および研究会などでコメントをいただいた方々のおかげで、よりよいものになったと感じています。とくにこの論文に関しては、査読プロセスを経て、論文の構成や仮説導出の過程が、初稿よりもかなりクリアーになりました。改めて感謝申し上げます。

論文の本筋とはあまり関係ないですが、5節結論の最終段落を書くことができたのは、自分にとって良かったと思っています。私は組織を対象とする計量分析を行っていますが、個人調査の分析と比べて、組織の計量分析には独特の面白さと難しさがあります。その一端について、拙い形でも言語化を試みたことは、個人的には意味のある作業でした。組織を単位とする計量分析の意義と困難については、最近も折に触れて考えています。現在執筆している博論にも、うまく反映できればと考えています。


論文ファイルはjstageからダウンロードできます。

カテゴリー: 研究