今学期は非常勤で社会学の学部ゼミを担当しました。私にとってはじめてのゼミ担当だったので、いろいろと試行錯誤しながら進めた部分も多く、備忘も兼ねてその記録を残しておきます。

なお、授業計画を考える際に、麦山さんのポストが大変参考になりました。この記事も、以下のポストを参照しながら書かれています。


概要

・社会学部の2年生が受講する必修科目

・ゼミは同じ学科・学期内で10以上開講され、学生の希望に基づき受講するゼミが割り振られる。なので、他の先生方と重ならない範囲で、ある程度自分の専門に近い内容のゼミにした。

・受講生は約15人


目標

ゼミの目標を設定し、初回授業で受講生にも伝えました。

・社会学における計量データを適切に読解し、解釈できるようになる

4年生で卒業論文を書くための第一歩として、データの読解・解釈を目標としました。データの読解には、社会調査士D・E科目に対応する統計学の知識も必要ですが、このゼミではほとんど扱っていません。そのかわり、社会調査データの背景を丁寧に考える作業に注力しました。すなわち、調査の対象やその方法、主要な用語の定義などを1つ1つ確認した上で、データの意味や限界をくり返し考えていくことにしました。

現代日本社会の格差・不平等について、基礎的な知識を獲得する

こちらは副次的な目標です。1つめの目標を達成するうえで、自分がなじみのあるトピックとして、格差・不平等を選択しました。


内容

毎週テクストを指定し、担当者にレジュメを作成してもらったうえで、発表とディスカッション、私からの解説を行いました。あわせて、期末レポート課題を設定し、中間発表・最終発表の機会を設けました。

教科書講読

学期前半は以下のテキストを読んでいきました。章ごとに発表担当者を決め、毎週2章ずつ進めていきました。

平沢和司,2021,『格差の社会学入門[第2版]:学歴と階層から考える』北海道大学出版会.

この本の特徴は、格差・不平等に関わる基本的な指標について、それがどのように作られているか/解釈すればよいかを丁寧に説明している点です。1つめの目標を達成するうえで良い文献だと考え、この本を選択しました。

第二に、ジニ係数・オッズ比・非正規雇用者比率・収益率などの主要な指標・概念と、データの読み方を丁寧に説明した。これは第一の留意点と矛盾するように思えるかもしれない。けれども指標がどのように定義され算出されるのか、その過程を自ら追ってみると、いろいろな前提や簡略化がなされていることに気づく。そうすることによって、指標の利点や注意点が、おのずとわかってくるだろう。

平沢(2021: iii-iv)

内容としても、現在の日本社会における格差・不平等について、重要なトピックがコンパクトにまとまっており、この分野で最初に読む本として適切だと感じました(データが比較的新しいのも良い点)。

受講生にとってのレベル感としてもちょうどよい印象をもち、もし似たようなゼミを持つことがあれば、引き続きこの本を使うかもしれません。

論文講読

学期の後半は、格差・不平等に関わる社会学分野の論文を毎週1本ずつ読んでいきました。扱った論文は下記の通りです。

余田翔平,2012,「子ども期の家族構造と教育達成格差:二人親世帯/母子世帯/父子世帯の比較」『家族社会学研究』24(1): 60-71.
数実浩佑,2019,「学業成績の低下が学習時間の変化に与える影響とその階層差:変化の方向を区別したパネルデータ分析を用いて」『理論と方法』34(2): 220-34.
竹内麻貴,2018,「現代日本におけるMotherhood Penaltyの検証」『フォーラム現代社会学』17: 93-107.
麦山亮太,2017,「キャリアの中断が生み出す格差:正規雇用獲得への持続的影響に着目して」『社会学評論』68(2): 248-64.
吉武理大,2019,「貧困母子世帯における生活保護の受給の規定要因:なぜ貧困なのに生活保護を受給しないのか」『福祉社会学研究』16: 157-78.

(1)社会調査データの計量分析を行っており、(2)国内の社会学系ジャーナルに掲載された比較的最近の論文のうち、『格差の社会学』とある程度トピックが重なり、受講生の興味関心にも近い論文を選びました。

論文のなかには高度な分析手法を用いているものもありますが、手法の詳細はほとんど扱っていません。発表担当者には、論文が

1. どのような問いを立てて、
2. その問いに答えるためにどのデータ・変数を用いて、
3. 問いに対してどんな答えを示しているのか、

を中心に内容を要約してもらいました。

2年生の段階ではなかなか理解が難しい部分もあると予想していましたが、担当の学生はみな論文の内容を適切に要約できていました。他の学生からの質問も、多くが論文の主張や構成をきちんと理解した上でのもので、十分に学術的なやりとりになっていたのではと思います。

期末レポート

レポートの課題は以下のとおりです。

日本社会の格差・不平等に関するトピックについて、その実態やメカニズム、あるいは時代的な変化のあり方に関する問いを1つ立てなさい。そして、適切な社会調査データ(公的統計)を示して、その問いに答えなさい。 

フォーマットは事前にwordファイルとして配り、構成も次の4節構成――(1)問題設定・先行研究および問いの設定、(2)使用するデータとその説明、(3)結果(図または表を含む)、(4)解釈と結論――に指定しました。

使用するデータはe-Statからダウンロード可能な公的統計に限定しました。データを自分で探す手間を省くとともに、公的統計は調査対象や用語の定義が明確に示されており、この授業の目標である「計量データを適切に読解し、解釈できるようになる」ための練習として適切と判断したからです。

実際に、中間課題では、公的統計からグラフを1枚作成してもらうとともに、1)調査名、2)分析に用いた表、3)URL、4)調査対象、5)調査時期、6)用語の定義 を箇条書きでまとめてもらいました。調査データを使うときに、そのデータがどのように作られたものかを確認する習慣をつけてほしい、というねらいからです。たとえば、以下のような感じです。

  1. 調査名:令和2年賃金構造基本統計調査
  2. 分析に用いた表:「令和2年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業大分類 第1表 学歴,年齢階級別きまって支給する現金給与額,所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」
  3. URL:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001152186&tclass2=000001152187&tclass3=000001152188&tclass4val=0
  4. 調査対象:「事業所母集団データベース(平成30年次フレーム)の事業所を母集団として、上記(2)に掲げる産業(引用者注:日本標準産業分類に属する16大産業)に属し、5人以上の常用労働者を雇用する民営事業所(5~9人の事業所については企業規模が5~9人の事業所に限る。)及び10人以上の常用労働者を雇用する公営事業所から、都道府県、産業及び事業所規模別に無作為抽出した78,181事業所」(厚生労働省 2022)
  5. 調査時期:令和2年7月
  6. 用語の定義:賃金は「令和2年6月の所定内給与額.これは「労働契約等であらかじめ定められている支給条件,算定方法により6月分として支給された現金給与額(きまって支給する現金給与額)のうち,超過労働給与額(①時間外勤務手当,②深夜勤務手当,③休日出勤手当,④宿日直手当,⑤交替手当として支給される給与をいう.)を差し引いた額で,所得税等を控除する前の額」(厚生労働省 2022)を指す.
厚生労働省,2022,「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」,厚生労働省ホームページ

レポートのトピックは多岐にわたり、たとえば男女・学歴・雇用形態間賃金差(賃金構造基本統計調査)、役職・企業規模別女性管理職比率(雇用均等基本調査)、大学進学率の地域間格差(学校基本調査)、高齢単身世帯の貧困(国民生活基礎調査)、夫婦間の無償労働時間(社会生活基本調査)などがありました。


感想

・毎週の文献講読+中間・期末発表+最終レポートと、かなりタスクの多いゼミでしたが、こちらの想定以上に学生さんが真面目に課題をこなしてくれていました。

・ディスカッションの進行は基本的に私が行ったのですが、もっと学生さんに進行をおまかせしても良かったかもしれません。あわせて、論文の解説などで、少し私が喋りすぎてしまった感もあるので、議論の時間を多めにとるのもありだったかなと思います。

・学期前半(教科書の読解)は、「内容に関する質問・感想・意見、なんでも良いからコメントして」と伝えていましたが、後半(論文講読)では「論文の内容について何か1つ質問して」と伝えました。発言のコストを下げるために、学期前半のような伝え方をしていたのですが、コメントのレベルは後半の方が明らかに上だったのが印象的でした。
 前半のような伝え方だと、「格差をなくすためには、~~が大事だと思いました」「貧困率を下げるために、◯◯さんは何をしたらよいと思いますか?」のようなコメントが多くなりがちでしたが、質問に限定することで、学術的な議論に発展させやすくなる、というのは自分にとっても面白い発見でした。

カテゴリー: 教育