2021年12月現在、博士論文を執筆しています。執筆にあたって関連する本をいくつか読み、それなりに学ぶところもあったので、いったんこの記事にまとめておきます。

前提

博論執筆に役立つ本には、次の2種類があるように思います。

  1. 博士論文の構成や書くべき内容がわかる本
  2. 博士課程の過ごし方や、博論の執筆スケジュールがわかる本

1は論文そのものに焦点を当てた本、2は論文を執筆する院生やその生活にフォーカスした本というイメージです。

こと博論については、1だけでなく2も重要です。というのも、博論の執筆が進まないときは、論文自体よりも、往々にして院生生活に原因があることが多いように思うからです(日々の雑事を優先して博論が後回しになってしまう、など)。

そのため、1と2の両方について何か有益な情報が得られればと思い、以下の本を読んでいきました。

博論に特化した本

The Dissertation Journey: A Practical and Comprehensive Guide to Planning, Writing, and Defending Your Dissertation


博士論文のテーマ選択から、執筆の各段階を経て最終審査に至るまで、やるべき作業が丁寧にまとめられています。各章のサマリーや、関連するResourcesについての情報も充実しています。

1の情報が整理されており、最初に読むべきガイドとして優れています。博論を構成する基本的な5つのパート、①イントロ②先行研究③方法④結果⑤結論のそれぞれに1章ずつ割かれており、必要な作業が明確に示されているのがありがたい点です。

現在執筆中の博論でも、イントロの初稿はこの本を見ながら書きました。

Writing Your Dissertation in Fifteen Minutes a Day


博士課程全般にかかわる話題がコンパクトにまとめられています。主なテーマは博士論文の執筆ですが、主査と論文委員会の選定(第2章)、外部/内部から博論執筆を阻害する要因(第6章)など、他のトピックについての議論も充実しています。

題名はあやしい新書のようですが、2の情報がよくまとまっている本です。タイトルも、毎日短い時間でも執筆を続けることの重要性を表しており、思考やアイデアをひたすら書き出していくfreewritingの意義が説かれています(第3章)。

個人的には、執筆に行き詰まったときに第6章をくり返し読んでいます。とくにFunky Exercises for Times When You’re Stuck (pp.93-98) には何度か助けられました。

The Dissertation Warrior: The Ultimate Guide to Being the Kind of Person Who Finishes a Doctoral Dissertation or Thesis

博論を執筆する上で重要な64のポイントがまとめられています。本書前半は博士課程の過ごし方についての議論が中心で、ABD(all but dissertation)に必要以上に長く留まらないための指示が書かれています。後半は博論の各チャプターを書くための具体的なマニュアルで、とくにIntroductionとLiterature Reviewの書き方が充実しています。

1と2がバランス良く議論されている本です。前半はタイトルのとおり「博論戦士」になるためのtipsが示されています。ポイント15 “You Have Time to Write This Dissertation” や20 “Final Draft Pledge” が参考になりました。また、先ほどは15分でしたが、この本では「1日10分の作業からはじめよう」(ポイント17)とさらにハードルが下がっています。

後半のイントロや先行研究の書き方も、結構使えるように思いました。必要な作業が細かく示されており、これに従うだけでそれなりの初稿は書けそうです。先行研究レビューの方法は、まさに実践している最中です。

博士号のとり方:学生と指導教員のための実践ハンドブック


博論執筆だけでなく、博士号取得に至るまでの院生生活全般に関する詳細なガイドです。たとえば、指導教員との付き合い方(第7章)や院生生活の心理的・時間的側面(第9章)などについて、具体例とともに対処法が示されています。指導教員や大学関係者向けのアドバイス(第12,13章)も書かれています。

日本語で読める2のガイドとして、最も詳しい本の1つだと思います。院生の具体的な事例が併記されているのも良い点で、ガイドがよりリアルなものに感じられます。第4章「博士号を取得しない方法」は博士課程の初めの頃に読んで、身につまされる思いでした。

口頭試問のアドバイスが充実しているのも助かります(第11章)。中間審査の前には、これとThe Dissertation Journey の第14章をあわせて読みました。

その他

Writing Your Dissertation: How to Plan, Prepare and Present Successful Work は1の情報が書かれた短めの本です。博論の準備としては物足りない印象で、修論の準備段階あたりに適していると思います。『社会科学系大学院生のための研究の進め方:修士・博士論文を書くまえに』も同様の印象です。

最近発売された『文系研究者になる:「研究する人生」を歩むためのガイドブック』には、日本で院生〜初期キャリアを過ごす場合に必要な基礎情報が網羅的にまとめられています。博論についてのセクション(6.6)もあります。修士・博士課程に入学する前に、現在の文系研究者をめぐる状況を見ておく目的で読むのがよいように思います。

論文執筆一般について書かれた本

広く論文執筆一般について書かれた本はたくさんありますが、そのなかで自分が読んだものを2,3簡単にまとめておきます。

できる研究者の論文生産術:どうすれば「たくさん」書けるのか

この分野で有名な本です。この本のメッセージは「一気書き(binge writing)ではなく、決まった時間に淡々と書き続けろ」に尽きると思いますが、これは上に挙げた『1日15分…』や The Dissertation Warrior の趣旨とも共通しています。

なぜあなたは論文が書けないのか? 理由がわかれば見えてくる、論文を書ききるための処方箋

著者は医学系の方ですが、社会科学の論文を書くうえでも参考になります。修論を書くときに参照しました。

Writing Your Journal Article in Twelve Weeks, Second Edition: A Guide to Academic Publishing Success

これも胡散臭いタイトルですが、中身はとても有用でした。修論や報告書など論文のタネがある状況から、12週間で投稿論文を書き上げるのに必要なタスクが1週ごとに示されています。私が読んだのは初版ですが、初めて本格的な論文を投稿するときには大いに参考にしました。査読対応のガイドがあるのも嬉しい点です。

また、第9章 Giving, Getting, and Using Others’ Feedback は、ゼミや研究会をより有意義な場にするために、とても役に立つガイドだと思います。

おまけ

博論日記

訳者の中條さんと同じく(p.185)、私も最後の口頭試問でのジャンヌの表情が印象に残っています。


博論を書き終えるまでに、新しい本を読んだり、上に挙げた本への印象が変わったりするかもしれません。そのときは適宜追記しようと思います。

カテゴリー: 研究